スポーツもネットで見る時代に

アメリカの主要TVネットワークが、プロスポーツのオンライン配信に向けて動き出したという話題がSilicon Alley Insiderに出ていました。

一部、記事から訳して引用します。

少し前まで、ネットワーク局はスポーツをウェブに流すことにとても懐疑的だった。彼らは莫大な放送権を払っているから、テレビの視聴者が減ってしまうことを恐れたのだ。でも今は、ウェブ上でスポーツ中継を同時に流すことは当然になりつつある。ネットワーク局、特にCBSNBCは可能の限り全てのスポーツをオンラインで流している。

例えば、フェデラーが5連覇を達成したテニスのUSオープン決勝はアメリカではCBSが放送しましたが、テレビでの視聴者がおよそ210万人だったのに対して30万人程度がウェブで視聴したそうです(1)。同様に、NBCが放送・配信したゴルフのUSオープンでもかなりの数のストリーミングがあったと同じ記事に紹介されています。

今後も、CBSがカレッジ・フットボールの試合をウェブでも流したり(アメリカにおける大学のフットボールは日本の高校野球のような人気スポーツです)といった取り組みが続くようです。

NBC北京五輪を大々的にネットでも配信したことを扱ったエントリーでも書いたように、アメリカではテレビ局の間で「スポーツのオンライン配信は必ずしもテレビの視聴率に悪影響を及ぼすものではない。逆に双方をうまく使うことによってトータルの効果はプラスになり得る」という認識が広まってきたということを強く感じます。

一方、まだスポーツのネット配信からいかにして収益を上げるのかという定まったモデルはないようです。例えば、上記の例で言えばCBSはUSオープンテニスのストリーミングでテレビと同じCMを流し(CMも含めてテレビの映像をそのままウェブで流したということ)、一方でNBCがテレビ、ウェブ双方で流しているSunday Night Footballでは、ウェブ配信のCM部分はテレビとは違う独自のものに置き換えているそうです。このあたりは、ウェブ配信することによってテレビのスポンサーから追加のCM料を取ることが出来るのか、またウェブ独自のCMを流す場合はその制作費とCM入れ替えにかかるコストをウェブ独自のCM収入と比較してペイするのかといったことを考えなくてはいけないのでしょう。

でも、今回のケースで大切なことは、スポーツのストリーミングは技術的には十分可能だし、それはテレビと重ならない領域で少なからぬユーザーのニーズを満たすサービスだということが示された点です。そこに何らかの事業機会と見出したときのアメリカのメディア企業の意思決定の速さ、動きの速さには、いつもながら驚くべきものがあります。スポーツのウェブ上でのストリーミングについて言えば、CBSNBCといった保守的な「旧メディア」の代表とされるような会社がまだ収益のめどがはっきりとは立たない試みに積極的に取り組んでいるのです。このように、技術をいかしたユーザー本位のサービスを素早く提供することこそが、変化の激しいデジタル時代に最も必要とされることなのではないかと個人的には思っています。

ぼんやりとしたチャンスがある時、それに取り組もうとするのかそのまま投げ捨てておくのかは、意志ひとつにかかっています。こういう話を聞くたびに、その意志の部分が日本のメディア企業には弱いなと感じます。こうして「ネット配信後進国」たる日本はどんどん取り残されていくのか・・・と情けない思いがします。


(1)テレビの視聴者数は、恐らく「番組全体に対して算出された視聴率に基づく視聴者数」です。一方、記事中にウェブの視聴者は「オンラインで平均49分視聴した」とあるように、番組全体を通してみた人の数ではありません。よって、厳密にテレビとウェブの視聴者が7:1の割合だったとは言えないはずです。