Comcastとネットワークの中立性

最近、アメリカでNetwork Neutrality(ネットワークの中立性)に関する議論が盛んに行われていますが、その最新の動きをわかりやすくまとめた日本語のリポートを見つけました。情報通信総研のサイトにある、「米国でブロードバンドの定額無制限利用を見直す動き」と題されたものです。

この議論のポイントは、電話会社、ケーブルテレビやその他のISPなどが、インターネットへの接続を恣意的にコントロールすることが許されるかどうかという点です。ネットワークの中立性を支持する立場からするとネットへのアクセスは平等でオープンなものであるべきだという主張になりますし、インフラ事業者の側からすると、ファイル交換などを行う一部の利用者が多大な帯域を独占すると回線が混雑し、一般ユーザーにまで迷惑がかかるので、そうした利用者に対して制限をかけるのはやむを得ないという言い分が出てきます。

上のリポートで取り上げられているのは、アメリカで情報通信分野を管轄するFCCとケーブルテレビ最大手のComcastによるやり取りです。従来、Comcastはネットワークへのアクセスに恣意的な制限をかけていることを認めていませんでしたが、BitTorrentをはじめとするP2Pの使用を妨害していることが昨年判明しました。FCCは2005年に「ネットワーク中立性の原則」を打ち立てているので(立法化はされていませんが)、Comcastはその原則に違反しているとして改善を求めました。

Comcastはこの判定を不服として裁判に持ち込むだろうと言われている一方、8月下旬に「家庭向けブロードバンド接続サービスの通信容量を、10月から月間最大250GBとする」と発表しました。ネットワークへのアクセスを制限するのでない、別種の規制を設けたということです。これをもって、リポートでは「ブロードバンドの定額無制限利用を見直す動き」と評しています。

ネット上での動画のやり取りが一般化し、配信されるコンテンツが長尺になり(数分程度のクリップから1時間番組、2時間を越える映画へ)、そして映像のクオリティがあがる(標準画質からHD画質へ)につれて、ますます多くのデータ容量が必要とされるようになります。一方、帯域の需要と供給のバランスをいかにして調整し、またネットワークの増強にかかるコストを誰がどのような形で負担するのかという点については各国ともまだ合意が作られていません。この点は、今後ますます大きな問題になっていくでしょう。