NBCの番組が再びiTunesに

昨年来iTunesでの番組販売を取りやめていたNBC Universalが、再びiTunesにコンテンツを提供することになったそうです(CNET Japanの記事)。すべての番組を同じ価格(1エピソードにつき1.99ドル)で販売させるというAppleと番組によって価格を変動させることを求めたNBCの対立が引き起こした事態でしたが、今回の合意では、HDバージョンの番組は2.99ドル、古い番組は0.99ドルなど価格づけに幅が持たせられるようになったとのことです。

これをもってiTunes上におけるAppleの価格支配力が弱まったとするCNETの分析はおそらく正しいでしょう。でも、今回の対立、そして和解の背景には、価格面に留まらず、映像コンテンツのオンライン配信における主導権をどこが握るのかという大きな問題があったのではないかというようにも感じます。

例えば、NBCiTunesからの撤退を決めたのは、ちょうどNBCがFOXと組んで自前の無料オンライン配信プラットフォームHuluを立ち上げる準備をしていた時期でした(NBCAppleの交渉が決裂したのが昨年の夏で、Huluのβサイト立ち上げが昨年10月末)。映像コンテンツの権利を持つ映画スタジオは、音楽業界で起こったような事態、つまり著作権を持たないAppleが配信プラットフォームを押さえてしまうことにより収益の大半がAppleに吸い取られてしまうことを非常に警戒しています。実際、NBCiTunes上の番組ダウンロードで30〜40%ものシェアを持っていたにも関わらず、そこから得られる収入は年に1500万ドル程度だったと言われています(Tech Crunchの記事)。

だから、Appleに頼らないオンライン配信からの収益メカニズムを作り上げるため、Huluを成功させることはNBCにとって非常に大切なプロジェクトだったといえます。幸い、Huluは順調に立ち上がり、Silicon Alley Insiderの見込みによれば今年の広告収入が最大で9000万ドルほどになるのではないかと推定されています。iTunesから撤退したことがどれほどの追い風になったのかは定かではありませんが、自前の配信プラットフォーム(正確に言えばHuluは独立した子会社ですが)が大きく成長したことにより、オンライン配信におけるAppleの相対的な力は弱まりました。スタジオ各社がAmazonのオンライン動画配信ビジネスなどに肩入れしたのも、同様にAppleの対抗馬を育てて一つの会社が独占的な力を持つことのないようにするのが狙いだったといえます。

Appleに過度の依存をする必要なくなった以上、テレビ局やスタジオ側は自らが権利を持つコンテンツから最も多くの収益を上げるための戦略を他社のご機嫌取りをすることなしに推し進めることができます。おそらく、無料のオンライン配信からはCM収入を得て、同時にiTunesで有料配信をすることが最も自社の利益になるという判断が、今回の合意をもたらしたのでしょう。一方、Appleの側はと言えば、新たな第一級の優良コンテンツが増えることによるデメリットはほとんどありません。もしかしたら「頑固者」「決して譲歩しない」と言われるスティーブ・ジョブズの性格が昨年の交渉決裂を招いたのかもしれませんが、仮にiTUnes上での価格統制力が多少下がったとしても、収益の分配率が多少悪くなったとしても、この会社はiTunesから上げる利益よりはるかに大きな利益をiPodの販売から得ているのですから。