BSデジタルはショッピングチャンネル?
昨日の読売新聞夕刊に、「キー局系BS5局が黒字」という記事が出ていました。BS日テレ、BS朝日、BS−i(TBS系)、BSフジ、BSジャパン(テレ東系)の5局が、2007年度決算でいずれも単年度黒字になったというニュースです。冬季純利益は4〜6億円程度。全局揃って黒字になるのは初めてだそうです。
このニュースに注目したのは、地上波に続く「CMつき無料」モデルとしてのBSデジタルが軌道に乗れば、ネット配信でも民放が同様の配信スタイルを導入することにつながっていくかもしれないと考えていたからです。権利者の許諾の問題や権利料の分配についてなど、ネット配信については他にも課題がありますが、「それがビジネスとして成立するのか」ということも非常に重要です。そして、個人的には、日本で動画コンテンツのネット配信を成長させる上では「CMつき無料」モデルがどれほど広がるかという点が大きなポイントになると考えています(ネット配信における無料モデルの重要性については、末尾の補足をご覧下さい)。
そういったわけで「おっ」と思いながらこの記事を見たのですが、読み進めていくうちに驚くようなフレーズに行き当たりました。引用します。
通販番組も、黒字化の原動力になっている。制作費をかけずに放送枠ごと販売できる点が魅力で、通販番組が総放送時間に占める割合は、局によって3〜5割。
3〜5割が通販番組・・・。そんなにあったんですね。
ということは、民放キー局の名前を冠した(冠していないところもありますが)BSデジタルのチャンネルの一部は、半分ショッピングチャンネルであるということになります。
しかも、通販番組以外のところでもCMは流れています。これらの局が加入している日本民間放送連盟の基準によると、「テレビの週間のコマーシャルの総量は、総放送時間の18%以内とする」と書かれています。ちなみに、通販番組の本編はあくまで「番組」ですのでコマーシャル枠には含まれません。
単純な頭の体操をしてみましょう。仮にあるBSデジタル局が1日24時間放送していて、そのうちの半分(12時間)が通販番組で、残りの12時間のうち18%のCMを流していたとします。そうすると、通販番組以外の時間帯に流れるCMは1日に約130分。もしこれが民放系BSデジタル局(の一部)の実態を表しているのだとすれば、この局は1日のうち14時間以上をモノやサービスの売り込みに使い、実質的な「番組」は10時間足らずしか放送していないということになります。
これを「プライムタイムにきちんとした番組を流すための必要手段」と見なすか「行き過ぎた商業主義」と見なすかは人それぞれでしょう。でも、放送時間の半分以上を商売のために使うような局が限られたBSの帯域を使っているのかと思うと、ちょっと情けない感じも受けます。
ともあれ、こうした通販番組が民放系BSデジタルの黒字化に大きな役割を果たしているのであれば、「CMつき無料モデルは地上波以外でも通用する」という論拠は弱くなってしまいます。通販番組は、テレビの「ながら視聴」には良いのかも知れませんが、ネット配信の収益源にはならないでしょう。仮に通販番組がネット上でオンデマンド配信されたとしても、見る人はほとんどいないのではないかと思います。そう考えると、日本の民放が自社の優良コンテンツを無料でネット配信するには、まだまだ時間がかかるのかもしれません。
(補足:ネット配信における「広告付き無料モデル」の重要性について)
幾度かこのブログで取り上げていますが、アメリカやイギリスで動画コンテンツのオンライン配信が大きく成長している大きな要因として、人気のテレビ番組という第一級のコンテンツがネット上で無料で視聴できることが挙げられます。ネット上で無料提供される期間には限りがありますし(例えば放送後1ヶ月間のみ、など)、テレビ放送される全ての番組がオンライン配信されるわけではありません。でも、「LOST」や「Ugly Betty」、「American Idol」といったトップクラスの番組がテレビ放送の翌日には各局のウェブサイトにアップされ、それを好きな時にタダで見ることができるという環境が多くの視聴者をネット視聴に惹き付けています。
一方、日本ではこうした人気のテレビ番組は未だオンラインの世界には登場していません。12月から始まる「NHKオンデマンド」ではNHKの最新の番組が提供される予定になっていますが、これは有料モデルです。また、フジテレビや日テレが運営しているオンラインVODのサイトも同様です。このスタイルでは、利用者を爆発的に増やすことは恐らく難しいでしょう。