Hulu 対 Youtube

先日、プロが制作したテレビ番組や映画を流しているHuluはユーザーの投稿ビデオが中心のYoutubeよりもずっと収益性が高いというエントリーを書きましたが、数日前のTechcrunchに同様の趣旨の記事が出ていました。

僕がそう書いたのは、YoutubeはHuluの50倍近い数のストリーミングを流している(2008年7月でYoutubeが月間50億ストリーム、Huluが1億ストリーム。Nielsenのデータより)のに来年にはHuluの広告収入がYoutubeを超えると一部で予測されている(CNET Japanの記事)ことを根拠にしています。両社とも正式な売上は公表していませんから、今の時点でどれほど広告収入に差があるのか、また来年にHuluのそれが本当にYoutubeを上回るのかは定かではありません。でも、ストリーミングの数に大きな開きがあることは事実です。これだけの視聴回数に差がある2社の広告収入が同レベルだとみなされているということは、手持ちの作品の質が広告収入を左右するとても大きな要因であることを示しています。

上に挙げたTechcrunchの記事から少し引用してみましょう。

Youtubeは、ユーザー作成コンテンツ(UGC)への巨大なニーズがあることを示している。しかしビジネスの観点からいえば、広告主がお金を費やしたいと思い、またビデオ・サイトが自らの財務基盤を強固にできるのはプロが作ったコンテンツなのだ。HuluがYoutubeのサイズにまで大きくなることは決してないだろうし、Googleはその巨大さを活用することができるだろう。しかし、Huluの強みは、ターゲットとする視聴者をより効果的に惹きつけることのできるコンテンツと広告主を結びつける力にある。
事の核心は、メインストリームとニッチ、どちらに広告を出すのかということだ。広告主は、彼らのターゲット・オーディエンスが視聴していることがわかっているビデオに広告を載せたがっている。

スポンサーとなる企業の立場から言えば、自分たち(あるいは自分たちの子ども)が名前を知っているような有名なコンテンツが提供されている場所、そしてそれらのコンテンツが倫理上・道徳上のコードに違反していないかどうかとか、それをウェブ上で提供することが著作権違反にならないかどうかといったことを心配しなくてすむ場所でお金を使いたいということですね。もしこの考えを持つ広告主が大勢を占めるのであれば、Youtubeに大量の広告を引き込むのは今後もかなり厳しい挑戦であり続けると言えそうです。Youtubeの最大の魅力は「基本的に何でもあり」という混沌から生まれているので、それを否定してスポンサーの思惑に合わせたおとなしいサイトになってしまうと、自らの人気を下げることにつながってしまうからです。

一方、Huluの課題は、「アクセス数を増やす」ことです。そのためには、コンテンツを提供してくれるパートナーを増やしてラインナップを充実させることも重要ですが、最近発表された「テレビよりも先にHuluで番組を流す」というNBCの取り組み(CNET Japanの記事)なども面白いですね。そして何より、Huluの知名度を上げることが欠かせません。

以前のエントリーで紹介したように、アメリカのオンライン人口のうちHuluのことを知っているのはたった15%だったという調査結果があります。この会社は昨年生まれたばかりで、サイトのベータ版立ち上げが昨年の10月末、そして本格オープンが今年の3月ですから、あまり浸透していないもの無理はありません。そして、この状況を改善するためにHuluはこれから50億円規模の広告キャンペーンを展開し、親会社であるNBCやFOXなどを通じて自社の広告を打っていくそうです(Ad Weekの記事)。

こうして見てくると、Huluが抱えている課題の方が「それを解決するためには何をしなければいけないのか」がはっきりしていて、またその解決策に取り組みやすいのではないかと感じられます。YoutubeとHuluは、オンラインでの動画配信という事業に正反対とも言える立場から乗り込んできました。その分、Google対YahooだとかFlashSilverlightのような正面衝突にはならないと思います。でも、ビジネスという観点から見ると、果たしてどちらのモデルの方が成功するのか、とても興味深いところです。