五輪ウェブ配信の舞台裏で進む「融合」

アメリカでの北京五輪人気は、依然として続いているようです。競泳でフェルプスが金メダルを量産しているといった事情もあるのでしょうが、放送権・動画配信権を持つNBCはテレビの視聴率、ウェブサイトのトラフィックともに好調です。Los Angeles Timesの記事では、「今回の五輪は、ウェブ上のコンテンツがテレビの視聴意欲をかき立て、またその逆も起こっているというとても珍しいケース」だと評されています。前回のエントリーでも書きましたが、北京五輪は、“テレビとウェブ配信は必ずしもゼロ・サムゲームの関係にあるわけではない”ということを示す好例になってくれるかもしれません。

この北京五輪の高視聴率/トラフィックの話は、「NBCのビジネスにとって大きな成功になった」という点が強調されがちです。でも、ウェブ配信の舞台裏を覗くと、そこは名だたるIT企業たちが配信技術のせめぎあいをしている場でもあるということがわかります。

例えばNBCは、マイクロソフト社のSilverlightを使って五輪映像のストリーミングを流しています。当初はAdobe社のFlashを使う予定だったのを、マイクロソフトが「Silverlightを使えばもっといろんなことができるかもしれない」と売り込んで契約を勝ち取ったんだそうです(CNET Japanの記事)。そして、このウェブ上の五輪動画に広告を配信するためには、GoogleのDouble Clickの技術が使われているとのこと(日経IR PROの記事)。さらに、NBCのウェブ配信の仕事を奪われてしまったAdobeは、中国で国営放送のCCTVと組んで中国・マカオ向けのウェブ配信にFlashの技術を提供することになりました(Adobeのプレス・リリース)。このプレス・リリースによると、AdobeCCTVはオリンピックだけでなく、ウェブ上で「他のイニシアティブ」も協力して進めていくと発表されています。

放送やオンライン配信の権利を持っているのはテレビ局かもしれませんが、それをビジネスとして成立させるにはITのプレイヤーたちとの協力が欠かせないということですね。デジタル化によってプラットフォーム間の垣根がなくなっていくということは、このようにオールド・メディアとニュー・メディアの事業エリアが重なっていく(融合していく)ことでもあるんだな、と感じました。


<追記 8/25>
Reuterに、オリンピックのオンライン配信がマイクロソフトとアドビの間でSilverlight vs Flashの競争を引き起こした、という記事が載りました。これからは、企業のウェブサイトなどでもリッチ・コンテンツがますます活用されるようになり、その中で主導権を握るために、激しい鍔迫り合いが繰り広げられるだろうという趣旨のものです。もしSilverlightWindowsのパソコンに標準装備されてわざわざユーザーがダウンロードする必要がなくなるようなことがあれば、一気に普及するのではないかとも思うのですが、どうでしょうか。