「テレビ」の強さ

このブログでは、いつもインターネットが映像コンテンツの配信に与えているインパクトに焦点を当てていますが、今回は、とは言ってもコンテンツを視聴するプラットフォームとしての「テレビ」は依然として大きな力を持っている、というお話を紹介します。

最近、eMarketerにこのトピックに関する興味深い記事が数件続けて出ました。いずれもアメリカにおける調査なのですが、まず、7月31日付けの「Are Short Videos Best for the Web?」という記事では、テレビに対する視聴者の支持の根強さが現れています。今年の3〜4月に1500人あまりを対象に行われた調査によると、
 ○映像コンテンツをコンピュータよりはテレビで見たい:43%
 ○オンラインのビデオを見るので、テレビで番組を見ることが減った:11%
 ○オンラインのビデオを見るので、劇場で映画を見ることが減った:10%
という結果が出ています。記事にも書かれていた通り、現状では(アメリカは日本と比べれば遙か先を行っているとはいえ)十分な数の人気テレビ番組や映画がオンラインで提供されていないということもあるのでしょうが、少なくとも今の段階では映像コンテンツのオンライン配信はユーザーのメディア使用傾向を大きく変えるにはいたっていないようです。

また、eMarketerの、「US Watching More TV Than Ever」(7/14),「Prime Time TV Online」(8/5)という記事では、オンライン配信が普及する一方でアメリカの視聴者がテレビを見る時間が増加しているということが紹介されています。ここで引用されているNeilsenのデータでは、アメリカの視聴者の平均テレビ視聴時間(月間)が2007年5月は121時間48分だったのに対し、2008年5月は127時間15分に伸びていたとのことです。この数字はDVRなどを利用したタイムシフト視聴を含んでいますが、その分を差し引いても(タイムシフト視聴は2007年5月が3時間44分で2008年5月が5時間50分)テレビの視聴時間は長くなっていることになります。

テレビの力が依然として強いということは、Hollywood Reporterが「今年、史上初めてアメリカのテレビの広告費が新聞のそれを上回る見込みだ」というVeronis Suhler Stevensonの調査結果を紹介していることからも推察できます。テレビの広告費が昨年の480億ドルから510億ドルに増える一方で新聞の広告費は515億ドルから468億ドルに減少する、という予測です。

これらの記事やリポートを総合すると、オンラインのコンテンツ配信は短期的にはテレビの覇権を脅かすほどの勢力にはならないと結論づけられそうです。ただ、ここで触れられているのはすべてひと括りにされた「テレビ」である点には注意が必要です。それは、必ずしもABCやNBCといったメジャーなテレビ局が勢力を伸ばしているということを意味するわけではありません。むしろ、昨年末からのハリウッドの脚本家ストライキなどの影響で、アメリカの4大ネットワークは大きく視聴率を落とし、また広告収入の面でも厳しい状況に面しているはずです。だとすると、テレビの好調を支えているのはケーブルテレビなどを主なフィールドとした専門チャンネルなのかもしれません。脚本が不可欠なドラマやコメディに頼らないチャンネルと言えば、スポーツやリアリティ・ショーを中心としたところなのでしょうか。すぐには答えが見つかりそうにありませんが、気になるところです。