ハリウッド映画とOnline Piracy

バットマン・シリーズの最新作「The Dark Knight」がアメリカで大ヒットにしています。急逝したヒース・レジャーの遺作になったという話題性ももちろんありますが、インターネットで海賊版が出回るのを阻止したことも成功の要因のひとつだと言われています。ではどれぐらい上手に防いだのかというと、「上映開始から38時間後までファイルをシェアするP2Pのサイトにアップされなかった」のだそうです(例えば、こんなサイトをご覧ください:12)。ここから、劇場映画に特有のビジネスモデルとそれに対する海賊行為の脅威の大きさを読み取ることが出来ます。

劇場で公開される映画は、公開された週の週末の興行成績が何よりも大事だと言います。ほとんどの映画は2週目以降がくんと興行成績を落としますし、また劇場サイドでも最初の週の客入りを見て映画の上映期間を決める参考にしたりします。映画の興行成績はその後のDVDの売り上げやテレビ局などへの放送権販売にも大きな影響を与えますので、劇場でリリースされた時点でどれだけ良いスタートを切れるのかということが決定的に重要なのです。

一方、映画界はずっと不法コピーに悩まされてきました。アメリカの映画産業の業界団体であるMPAAの資料によれば、2005年度にハリウッドの主要映画スタジオは全世界で海賊行為により61億ドルの損害を受けており、その38%がインターネット上のpiracyとされています。業界団体が公表する数値をどれほど真に受けていいのかという問題はありますが、多少割り引いて考えたとしても莫大な金額です(ちなみに、MPAAの別の資料によれば、2005年の全世界の映画興行収入は230億ドルとされています)。

映画スタジオがウェブ上の海賊行為に神経を尖らせるのは、ネット配信が持つ圧倒的なスピードのためです。いちどどこかのサイトに不法コピーがアップされてしまうと、国境も何も関係なくあっという間に世界中に広まってしまいます。そこから取り締まるのは、ほとんど不可能です。しかも、以前は不法コピーと言えば、劇場にこっそりビデオカメラを持ち込んで作品を撮影してそれをDVDに焼くというスタイルが主でしたが、最近は制作〜配給の過程のどこかで内部から流出した作品がネットにアップされるというケースが増えてきています。つまり、劇場で公式にリリースされるよりも前にネット上で不法コピーが出回ってしまうのです(もちろん、無料で)。これは、スタートダッシュをかけたい映画スタジオにとっては大変な事態だと言えるでしょう。

LA Timesに、製作元のワーナーがいかに「The Dark Knight」の内部流出を防ぐための手立てを講じたのかということを紹介する記事が出ていました(今はなぜかリンクが働かないので、もしかしたら何らかの理由で削除されてしまったのかもしれません)。それによると、ワーナーは映画の撮影、ポスト・プロダクションから配給にいたるすべてのプロセスで、いつ誰がこの作品にアクセスしたのかを細かく記録し、作品を徹底的に管理したそうです。また、劇場にフィルムを輸送する際にも、作品をパーツに分けてわざと同時には全部が届かないようにするといった方法も取ったようです。

こうした苦労の結果が、リリースから38時間後までネット上に海賊版が出回らなかったという成果に結びついたということですね。また、DVDによる海賊版の販売が確認されたのはリリースから数日後のことだったそうです。これだけのことをしても上映開始から丸2日も経たないうちに不法コピーが出回ってしまうのか、という気もしますが、映画スタジオにとっては大きな成果だったと言えるのでしょう。