視聴者の高齢化とオンライン配信

先日、Broadcast&Cableにアメリカの主要TVネットワークの視聴者が高齢化しているという記事が載りました。Magna Global Worldwideという会社が発表したリポートを紹介したものです。

それによると、テレビ番組を生で(=放送される時間に)観ている視聴者の平均年齢は以下の通り。
CBS: 54
ABC: 50
NBC: 49
Fox: 44
The CW: 34

7日以内にDVR(ハードディスクなどの録画機器)を使って視聴した人も含めても、結果はほとんど変わりません。
CBS: 53
ABC: 49
NBC: 48
Fox: 43
The CW: 34

この数字にはちょっと驚きました。これらのテレビ局がプライムタイムに放送しているドラマ(例えば「Heroes」だとか「Ugly Betty」など)の多くは明らかにもっと若い世代を対象にしていますし、「American Idol」やその他最近ますます増えてきたリアリティ・ショーの主要なターゲットも50歳以上だとは思えないからです。しかも、"若者向け"というイメージのあるFOXでさえ、平均的な視聴者像は40歳を大きく超えているという結果になっています。(ちなみに、唯一の30歳代を記録しているCW Networkは、1990年代半ばにワーナーが立ち上げたWBとバイアコムが始めたUPNという2つのTVネットワークが2006年に合併してできたものです。フィンシン・ルールの廃止などによって映画スタジオとテレビ局の合併が認められるようになった10数年前、一方ではディズニーによるABCの買収などが起こりましたが、他方でワーナーやバイアコムは新たなTVネットワークを立ち上げる戦略を取りました。でもWBやUPNは思うようには結果が出せず、合併に至りました。CWになった後も苦戦は続き、アメリカのテレビ業界での存在感はきわめて薄いネットワークです)。新聞業界は読者の高齢化を懸念していますしBBCNHKのような公共放送もいかにして若い人を惹きつけるかということに腐心していますが、この調査が正確なものであれば、少なくともアメリカでは地上波のテレビ局全体に同じような現象が起きていることを示しています。

ここで重要なのは、アメリカでは「18〜49歳」が一般企業の主なマーケティング対象となっており、この年代の視聴率が何よりも重要視されていることです。つまり、視聴者の平均年齢が50歳を越えてしまうということは、テレビ局にとっては広告収入を確保するという点でとても困ってしまう事態だと言えます。

これに対して、オンラインで番組を見るのはずっと若い年代が中心です。例えば、今年3月にMultichannel Newsに載った記事によると、ある調査では18〜34歳の42%が毎週ウェブ上で映像を見るのに対し、35歳以上ではその割合が15%しかないという結果が出たそうです。大学でも、「うちの子ども(あるいは弟/妹)はテレビを全く見ずに、好きな番組はインターネットを使ってパソコンで見ている」という話を聞くことが何度かありましたが、そういう人が増えていることもテレビの視聴者の年齢を押し上げる要因になっているのかもしれません。

これは、言い換えれば、テレビという「メディア」の視聴者と番組という「コンテンツ」の視聴者が必ずしも一致しなくなってきているということです。テレビというプラットフォーム自体が若い人たちの支持を失いつつあるのなら、企業は広告費を他の媒体に移そうとするでしょうし、番組の製作者やテレビ局の側でも、より若者たちの生活スタイルに合った形でコンテンツを提供していかなくてはいけなくなります。そう考えると、インターネットを使ったオン・デマンドによる番組の配信(今はパソコン向けが主流ですが、3G携帯とWifiアメリカでも普及すれば、携帯向けというのも育ってくるはずです)はとても重要な戦略であるように思えます。