「シェア」を利用してリーチの拡大を-2

前回のエントリーでは、アメリカのネットワークTVが運営するオンラインVODの中でABCは視聴者によるコンテンツのシェアを認めておらず、CBSとHuluは(程度は大きく違いますが)認めているという話を書きました。ABCはメジャー・ネットワークのなかでコンテンツの集積・配信ともに一番排他的な戦略を取ってきたのですが、今日のBroadcasting&Cableの記事にその方針が軌道修正されるという内容が出ていました。

実際に改正案が実現されるのはこの秋のことらしいのですが、その記事によると
○コンテンツを視覚的に(graphically)探すことができるようになる
○ABC.comで提供される番組やクリップを外部のウェブサイトなどに貼りつけられるようになる
○視聴したプログラムに応じた「レコメンデーション機能」が付与される
○字幕機能が付与されるようになる

といった改善が施されるようです。

コンテンツの集積や配信について外部パートナーとの協力関係を強化するといったことには何も触れられていないので、自己完結的なモデルはそのままなのかもしれません。ただ、この改革が実行されればユーザーの満足度は確実に高まるでしょう。

最初の点については詳細が明らかにされていないのでコメントもできませんが、以下の3点はいずれもありがたい機能です。まず、前回述べたようにユーザー間のシェアに対する制約をできるだけ減らすことは、ユーザーにとってもABCにとっても良い結果をもたらす可能性が大いにあります。次に、「おすすめ機能」の有効性はAmazonNetflixの成功が実証しています。自分が見た番組に応じて「こんな番組もどうですか?」と言われれば、それは新たな視聴意欲を刺激するのに役立つでしょう。ただし、この機能は提供するコンテンツの数が一定以上のレベルに達してこそ(別の言葉で言えば、コンテンツの数が多ければ多いほど)効果を発揮するのではないかという気もします。たとえばおよそ300シリーズのテレビ番組と100本程度の映画を提供しているHuluでテレビと映画の垣根を越えたおすすめ機能があればそれは重宝しそうですが、現状ではテレビ番組のみ20シリーズ程度を提供しているに過ぎないABCのオンラインVODにおすすめ機能を追加したところでそれは本当にうまく働くのだろうか、という疑問が湧いてきます。もしかしたら、これらの改善に伴ってコンテンツの数を飛躍的に増やす、なんていうことを計画しているのかもしれませんが。

そして、字幕機能は以前から僕が「あれば便利なのにな」と思っていた機能です。イギリスでもアメリカでも、メジャーな放送局がテレビで放送する番組の多くは字幕放送に対応しています。テンポが速く、しかもスラングがたくさん出てくるようなドラマやコメディを見るときには、僕のような英語ネイティブではない人間にとって字幕があるのとないのとでは楽しめる度合いが大きく変わってくるのです。しかも、あまり立派とは言えないパソコンのスピーカーを通して聞こえてくる英語の会話を理解するのは、テレビを見るとき以上に苦労します。字幕は、ほかの局でもぜひ取り入れて欲しい機能です。また、Huluのように将来的に国際的なオンラインVODを展開するという目標を打ち立てている場合、DVDの映画を観る時と同じようなイメージで数ヶ国語の字幕の中から自分に合ったものを選んで付与できるという機能があれば、権利クリアの問題などは別として、国際化のひとつの大きなハードルを越えたことになります。

このように、ABCが発表した番組のオンライン配信の改革案は、ウェブ上でのユーザーのコンテンツ視聴体験を大きくグレード・アップすることにつながるものです。早くそれが実現しないかな、と思うとともに、CBSやHuluなどにもぜひ追随してもらいたいな、と期待しています。