「シェア」を利用してリーチの拡大を-1

ちょっと面白い記事を見つけたので、今回は当初書こうと思っていた話題とは少し違うものを紹介します。アメリカのネットワークTVによるオンラインVODのビジネスモデル分析は、近いうちに改めて書くつもりです。

最近のエントリーで、ABC,CBS,HuluによるオンラインVODのコンテンツ集積(aggregation),配信(distribution)モデルの違いについて触れました。簡単に言うと
○ABC:自己完結モデル(集積、配信ともにクローズド)
CBS:半オープンモデル(集積はクローズド、配信は他社と協力)
○Hulu:オープンモデル(集積、配信ともに他社と協力)
という戦略を採っています。

その時には書きませんでしたが、コンテンツの配信についてはもうひとつ大きな違いがあります。それはユーザー間の「シェア」を認めるかどうかという点です。ABCのオンラインVODでは、ユーザーは番組を視聴することしかできません。一方、Huluは気に入った番組やクリップのURLをユーザーが友人にEメールで送ったり、あるいはそれらのコンテンツを自分のブログやウェブサイトに貼りつけることができます(Youtubeの画像を貼りつけたりするのと同じような感覚です)。CBSはここでもABCとHuluの中間に位置していて、EメールでURLを送りあうことはどのコンテンツに対しても認めていますが、貼りつけについては2,3分程度のプロモーションクリップやインタビューだけしか認めておらず、番組本編は貼りつけられないようになっています。

自分が面白いと思うものをどんどん簡単にシェアしていけるというのがインターネットの大きな特長のひとつです。テレビ番組などは権利関係が入り組んでいるので完全にシェアを自由化するのはなかなか難しいのはよくわかりますが、この点にあまり厳しい制約を課すことはユーザーが海賊版のコンテンツに流れる可能性を高めることでもあります。先に紹介した以前のエントリーでも書いたように、CMはすでにコンテンツに埋め込まれてスキップもできないようになっているのだから、それが自社サイトからであろうと他社サイトからであろうとあるいはユーザー間のやり取りを通じてであろうと、コンテンツの視聴回数を増やすことがオンラインVODからの収入を増やすことにつながります。しかも、ユーザー間の自発的なコンテンツ流通は手数料がかからないというメリットもあります(例えばAOLやComcastなどのサイトからHuluのコンテンツが見られた場合には、Huluは広告収入の一部をそれらの会社と分け合うことになります)。このように考えると、「シェアに関する制約を可能な範囲でできるだけ少なくする」という方針を採る事によって、ユーザーとテレビ局双方が恩恵を受けることができるのではないかと感じられます。

ここで大切なことは、「シェア」と言ってもそれはユーザーが自分の所有物をシェアするわけではなく、シェアできるようになったのはいわばコンテンツへのアクセス手段であり、大事な部分はテレビ局側ががっちりとコントロールしているのだという点です。まず、ユーザーはネットワークTVが提供するオンラインVODからコンテンツをダウンロードすることができません。つまり、iTunesで映画やテレビ番組を購入するのと違い、これらのオンラインVODで提供されるコンテンツを「自分のもの」にすることはできません。そして、コンテンツの提供期間はテレビ局側が決めるので、たとえすでに自分のブログに貼りつけているコンテンツであっても、大元のサーバーがそのコンテンツの提供を打ち切るともう視聴することができなくなります。また、すでに述べたようにCMは予めコンテンツに埋め込まれているので、それをカットしたりスキップしたりすることはできません。ユーザーに対して無料でコンテンツを提供する以上、これらの制約は不可欠だと言えるでしょう。

本当に書きたかったのはここから先の話なのですが、状況を説明するだけで大分と長くなってしまったので、一度ここで区切りを入れます。次のエントリーで今日見つけた記事についての話を書くことにします。