テレビ番組のオンライン配信 -1

映画やテレビ番組をウェブ上で配信する場合、配信形態と収入モデルによって大きく4つのカテゴリーに分けられます。ストリームかダウンロードか、有料(購入やペイ・パー・ビュー)か無料(広告つき)かという違いです。そして、大きな流れとしては、
・映画は有料配信(ダウンロード、ストリームともにあり)
・テレビ番組は広告つきの無料配信(ストリーム)
というのが今いちばん一般的な手法として使われています。

映画とテレビ番組による収入モデルの違いは非常に興味深いところですが、それはまたいずれ取り上げることにして今回はテレビについて考えてみたいと思います。テレビ番組のオンライン配信は、アメリカとイギリスで発展してきたオンラインVODのモデルを比べることで、広告に支えられた無料のストリーム配信への流れが理解できます。

アメリカのネットワーク局がインターネットを通じた番組配信に一斉に乗り出す契機となったのは、2005年の秋にAppleとABCが手を組んで始めたiTunes上でのテレビ番組販売です。音楽業界のビジネスの仕組みを一変させてしまったiPodに映像も見られる新機種が登場し、それに合わせてiTunesDesperate HousewivesやLostなどの人気番組が一話1.99ドルで販売されるという発表は、テレビ業界に大きな衝撃を与えました。この提携は、AppleのCEOスティーブ・ジョブズがABCの親会社であるディズニーの個人筆頭株主で、役員にも就任しているという関係もあって実現したものと思われます。2006年には同じくABCが自社サイトでの番組無料配信(広告付きのストリーム)をはじめ、CBS,NBC,FOXなどのライバル局も相次いで自社のウェブサイトを通じた番組の無料ストリーム配信に乗り出しました。このようにアメリカでは、有料で販売されるiTunes海賊版が問題になったYoutube(2005年創業)への対策上、テレビ局のオンラインVODはもともと広告付き、ストリームというのが主流でした。アメリカでは公共放送がマイナーな存在でテレビは黎明期から広告に支えられる無料放送として発展してきたという事情も影響しているのかもしれません。

一方、イギリスの地上波テレビでは2006年12月にチャンネル4が初めてオンライン配信を開始しました。チャンネル4は、広告収入で運営される公共放送です。オンライン配信の計画自体はその数年前からBBCが進めてきましたが、それが本当に公共サービスにつながるのか、また民間企業への過度の圧迫とならないのかといったことの調査が行われている間に、チャンネル4に先を越されてしまいました(BBCのオンラインVODは2007年7月に開始)。面白いことに、チャンネル4のVODサービス(4oD)はアメリカのネットワーク局とは違って有料のダウンロードサービスとして始まりました。放送後30日以内の番組を、1話0.99ポンド(およそ2ドル)で販売するというモデルです。これは2007年春に改められ、その後は放送から30日以内の番組は無料(CMつき)、その他の番組は0.99ポンド、そして映画レンタルは1.99ポンド(ここは変わらず)という形になりました。また、受信料を財源としているBBCは放送後7日以内の番組をオンラインで無料で視聴できるiPlayerを立ち上げましたが、こちらもダウンロード式のサービスとして始まりました。一方、2007年の夏に開始されたイギリス最大の民放ITVのオンラインVODは、アメリカのネットワーク局と同様広告付き、無料のストリーミング配信モデルを採用しました。

BBCとチャンネル4の方式で特徴的だったのは、どちらも最初にまず専用のプレイヤーをそれぞれのサイトからダウンロードしなければいけない点、そして見たい番組があった場合にもその都度それをダウンロードしなくてはいけない点です。僕はちょうど2007年7月までの1年間をロンドンで過ごしたのでこれらのイギリスのオンラインVODを実際に体験することができましたが、BBCやチャンネル4の番組は大体30分で200メガ程度の容量があり、それをダウンロードして視聴できるようになるまでに30〜50分程度かかっていました。ドラマやドキュメンタリーは大抵もっと時間が長いのでそれに比例してダウンロードにかかる時間も長くなります。不法コピーを防止して著作権を守ることの大切さは理解できますが、オンラインVODを利用するたびにそれぞれのプレイヤーを立ち上げなくてはいけなくて(互換性はありません)、しかも見たいと思った時から数十分から1時間以上もダウンロードで待たされるという仕組みは、あまりユーザーのことを考えた設計になっていないなと常々感じていました。「いつでも、すぐに、気軽に」というのがインターネットの利点のはずなのに、それが全然活かされていなかったからです。

でも、イギリスのオンラインVOD,特にBBCのサービスはその後大きな変化を遂げています。それについては次回ご紹介します。