サーチ・エンジンとオンラインの動画配信

マイクロソフトからの買収提案を断ったり、その一方でニューズコープとの提携話が取りざたされたりといった話題が注目されているYahooですが、つい最近、Maven Networksというベンチャー企業を買収したというニュースがありました。僕はこの会社のことを知らなかったのですが、日経BP記事で「オンライン動画プラットフォームを手がける」会社だと紹介されていたので興味を持ちました。ただ、オンライン動画プラットフォームと言われても具体的にどんなことをしているのか、あまりぴんと来ません。そこでMaven Networksのウェブサイトを覗いてみることにしました。

僕なりの理解では、Maven Networksは企業が動画(新商品の紹介や、あるいはメディア企業の場合はニュースクリップ、番組のプロモーション映像など)を自社のウェブサイトに載せたいという時に技術面やデザイン、コンテンツ・マネジメントをサポートし、また広告の埋め込む際の手助け(フォーマットや内容など)をしている会社です。サービスの一例として紹介されているFood Networkの動画コンテンツを見てみました。ウェブ上で流れる5分程度の料理番組の中で随所に画面の下、あまり目障りではない場所に講師紹介や食材の紹介(メーカーへのリンク)、レシピ本の販売などの広告が挿入されていました。それらをクリックすると、番組本編のビデオが一時停止されて新たなリンク先の画面が開いたり、購入ページに進んだりという反応がとてもスムーズに起こります。同じ宣伝が時間を置いて何度も出てくるので途中からはちょっと鬱陶しくなりますが、ウェブ上のコンテンツに広告を入れる手法としてこういうモデルがあるのかという目新しさも感じました。

僕がこのニュースを見て興味深く思ったのは、サーチ・エンジンがウェブ上の動画コンテンツ配信ビジネスにおいて大きな勢力になりつつあるなという印象を改めて持ったからです。この買収の狙いは、Yahooがウェブ上の動画配信と動画広告を強化することだと言われています。また、Googleも周知のとおりYoutubeを傘下に収めているほか、Google Videoというもうひとつの動画投稿・配信サービスも持っています。今のところYoutubeは膨大な利用者数とは逆に収益面ではほとんどGoogleに貢献していないと言われていますし、Google Videoは利用者数が伸び悩んでいると指摘されています。ただ、インターネット上の動画配信が今後ますます発展していくにつれて、見たい動画をどうやって見つけるのかということが重要になるはずです。タイトルや監督、あるいは予め指定されたジャンルなどを基に検索することはできますが、動画の内容を整理・分類して検索できるようにすることは、テキストが中心のウェブサイトを検索するのとは違って非常にやっかいです。GoogleやYahooがウェブ上の動画配信や動画広告サービスを抱え込むことによって動画の検索やそこへの広告埋め込みのノウハウを磨きあげていくのであれば、サーチ・エンジンの存在感は今後さらに高まっていくことになるでしょう。

また、Google Videoが昨年の夏まで持っていた、コンテンツの製作者が任意に指定した金額で有料のオンライン配信をするという機能はとても面白いものだと僕は思っていました。これを利用することにより、「プロフェッショナルが製作したけれど放送局のVODにリストアップされるほどメジャーではない動画コンテンツ」、いわゆるプロが作ったミドル・テールのコンテンツをオンラインで配信して収入を得るという新しいコンテンツ配信の仕組みが作られたと感じたからです。残念ながら今はこの機能がなくなってしまいましたが、Google Videoでは今でもそうしたインディペンダント系の映像作品のプロモーションの場として利用されています。例えば、僕が以前バンフ・マウンテンフィルム・フェスティバルというアウトドアやアドベンチャー系の作品を集めた映画祭に行った時に見てとても気に入った「Alone Across Australia」という映画がありますが、この映画は冒頭の20分程度がGoogle Videoアップロードされていて無料で見ることができます。そして、「続きが見たければこのウェブサイトに行ってDVDを購入してください」という終わり方をしています。一方で、同じように僕がこの数年間見たドキュメンタリーの中で1,2を争うほどではないかと思っているほど質の高い「The Revolution Will Not Be Televised」という作品がありますが(ベネズエラチャベス大統領に対するクーデター未遂の一部始終を、たまたまチャベスのドキュメンタリーを作るために密着取材していたアイルランドのクルーが記録したものです)、これは74分の本編すべてをGoogle Video上で無料で見ることができます。何らかの形で収入と結びつかなければプロフェッショナルの作品を配信するプラットフォームとして大きく成長することは難しいとは思いますが、それでもこのようなクオリティの高い作品を、オンラインで、無料で、しかも正規のアップロード版(海賊版ではなく)として視聴できるということを知った時には大きな衝撃を受けました。

このように、GoogleやYahooは、その傘下に収めた企業を含めてオンラインでの動画配信において主要なプレイヤーになっています。テレビ局など従来のマスメディア(彼らもこの1,2年インターネット上で動画を流すことに非常に熱心です)とサーチ・エンジンが今後どのように絡み合いながらウェブ上の動画コンテンツ配信のモデルを形作っていくのか、注目していきたいと思います。