Youtubeとコンテンツ配信

オンラインの動画配信というと真っ先にYoutubeのことを思い浮かべる人は多いのではないかと思います。不法にアップロードされたコンテンツが著作権を侵害していると映画スタジオやテレビ局などから厳しく非難されていますが、インターネット上でビデオを見るという習慣を人々に根づかせたという点ではYoutubeが果たした役割は非常に大きいものです。ネットワーク局(ABC,CBSなど)がこの1,2年取り組んでいるテレビ番組のオンライン配信も、Youtubeに対抗するために開始され、Youtubeが開拓したユーザーに支えられている面が多分にあります。

Youtubeが人気なのは、最近の映画やテレビ番組がアップロードされるからだけではありません。同じ著作権侵害といっても、商品として発売されていない有名人のスピーチやミュージシャンのプロモーション・ビデオ、もう廃盤となっているような昔のライヴ映像などを見ることができるのは、ユーザーの立場からするととてもありがたいことです。そして、プロフェッショナルが仕事として製作したコンテンツだけでなく、個人が製作したコンテンツが大きな話題を呼ぶことがあると言う点も、Youtubeが新たにもたらした見逃すことのできない現象です。

例えば、「Free Hugs Campaign」というビデオがあります。通りがかりの見知らぬ人に声を掛けてハグをし、お互いにちょっとだけ幸せな気分になろうという試みを映像にした3分半のこの作品は、投稿されてから1年半弱で2400万回近くも視聴されています。そして、フリー・ハグinハリウッド、韓国、オーストラリアetcといった、この作品に影響を受けた類似のビデオが次々にアップロードされるようにもなりました。また、最近の例で言うと、アメリカの大統領予備選で民主党の指名争いを演じているバラク・オバマを応援するためにヒップ・ホップのミュージシャンが作った「The Yes We Can Song」という歌のビデオ・クリップが大きな話題になっています。この曲はオバマが演説で使ったフレーズを歌詞にしてそれにメロディをつけたものです。ビデオ・クリップはプロの映像監督の手によるもので出演者も有名人ばかりなので、いわゆるアマチュアの作品ではありませんが、これは販売してお金を儲けるために作られたものではなく、バラク・オバマのスピーチに共感する人々が個人の立場で製作したものです。2月2日のアップロード以来2週間足らずでアクセスが400万に達しようとし、3万以上のコメントが寄せられていると言えば人気のすごさがわかるかと思います。

重要なのは、Free Hugs CampaignもThe Yes We Can Songも、Youtubeのように誰でもどこからでも投稿・視聴・シェアできるプラットフォームがなければこれ程多くの人々を惹きつけることはできなかっただろうということです。個人が(あるいは個人の立場で)製作した映像コンテンツを流すルートは、伝統的なマス・メディアの世界にはほとんどありません。マス・メディアは、プロフェッショナルが仕事として製作したコンテンツを読者や視聴者に送り届けるメディアです。仮にお金を出してCM枠を買おうとしても、莫大なお金がかかる上に3分半、4分といった長いコンテンツをひとつのCMとして流すことはまず不可能です。Youtube以前の世界では、個人レベルでコンテンツを作ることはできたとしても、それを広く世界に対して発表する術がありませんでした。インターネットというグローバルなメディアの上にコンテンツを自由に流通させる仕組みができたからこそ、稀なこととは言え、このようなグラスルーツで製作された作品が大きなムーブメントに結びつくことが可能になったのです。Youtubeは、ただオンラインでの動画配信を普及させただけでなく、コンテンツの製作者としての「個人」の可能性を大きく切り開いたと言えるでしょう。