脚本家のストライキとコンテンツのオンライン配信

昨年の11月から3か月以上も続いていたハリウッドの脚本家ギルド(WGA)によるストライキがようやく終了しました。このストライキはプロデューサー連盟(AMPTP)に対して起こされたものです。ハリウッドでは、映画やテレビ番組の製作を統括するプロデューサー(そのバックには映画スタジオやテレビ局がついています)と監督・役者・脚本家などの間で労使関係が出来上がっているため、AMPTPは数年ごとに監督ギルド(DGA),役者ギルド(SAG)そしてWGAと契約を結び直します。今回は、昨年の10月で契約が切れるWGAとの交渉が上手く行かずにストライキにつながりました。なぜ交渉が難航したのかというと、インターネットや携帯などのニューメディアでコンテンツを配信する際に脚本家たちに支払うロイヤルティーをどうするのかという点で両者が激しく対立したからです。インターネットでのコンテンツ配信を巡るいざこざがハリウッドの映画やテレビ番組の製作をストップさせ、総額30億ドルにも上ぼると推定される経済的な損失をもたらしました。アメリカのエンターテインメント業界では、インターネットでのコンテンツ配信がそれほど大きな意味を持つ問題だと認識されています。

交渉がなかなかまとまらなかったのは、脚本家たちとプロデューサー側で議論の立脚点が大きく違っていたからです。脚本家たちはネット配信がここ数年のうちに大きく成長すると考え、その収入からの配分を今回の契約更改交渉(期間は3年間)でしっかり確保しようとしました。一方、プロデューサーの方はオンライン配信はまだ始まったばかりで収益の見通しが立たないから、今の時点でそんな話をすることはできないと主張し、本格的な話し合いを先送りしようとしました。どちらの言うことも理解はできますが、この1,2年でテレビ局や映画会社がコンテンツのオンライン配信事業に一斉に乗り出している以上、ドラマやコメディなどの製作に欠かせない脚本家に対してある程度の補償をするのは当然だと言えるかもしれません。

長く続いた対立の末、
○インターネット上で有料販売されるコンテンツから脚本家に支払うロイヤルティーを2倍に引き上げる
○インターネット上で無料ストリーミング配信される広告つきのコンテンツからも脚本家にロイヤルティーを支払う(1時間番組の場合、最初の2年間は固定額でおよそ1300ドル、3年目以降はコンテンツのDistributor(配給者)が得た収入の2%

といった点で交渉がまとまり、ようやくストライキ終結することになりました(合意内容の詳細はWGAのサイトで確認できます)。

このストライキが始まった頃に、ロイターなどに興味深い予測が載っていました。このストライキは、インターネット上でのコンテンツ視聴を普及させるきっかけになるだろうというものです。そして、実際にその効果が出ているようです。今回のストライキは、映画の製作にはそれほど大きな影響を与えませんでしたが、ネットワーク局が放送するプライムタイムのドラマやコメディなどは脚本が尽きて製作がストップしてしまいました。テレビ局は番組枠を埋めるために再放送や台本のいらないリアリティ・ショーを放送しているので、当然視聴率は下がっています。そして、一部の視聴者は面白い番組がないテレビを消してインターネットでコンテンツを見るようになっています。Mediapostというサイトに載っている記事が、いろいろな会社が行った調査をもとにストライキとインターネット利用の関係を分析しています。それによると、
○昨年の12月にアメリカでは100億回以上のビデオがオンラインで視聴され、過去最高を記録した
○大人1000人を対象に行った調査で、ほぼ半数の人がストライキのためにより多くの時間をインターネットに費やすようになった
ストライキが始まってから、オンライン・ビデオを流すサイトのトラフィックが2倍以上に増加した
といった影響が出ているようです。ストライキが終わったからといって、すぐにテレビ局の番組が元通りに戻るわけではありません。今後テレビ局が視聴者を取り戻すことができるのか、それともテレビからオンラインに向かう流れが定着してしまうのか、とても気になるところです。