TED Booksを読んで感じたこと

前回紹介したTEDの電子書籍TED Books、購入した1冊を読み終わりました。読みながらこのTED Booksという取り組みについて感じたことを簡単に記します。

まず、クリス・アンダーソンがTED Booksの特長であるとした「短さ」ですが、これは確かに斬新で、普通の読書とはひと味違った印象を受けました。

僕が読んだのは、第一期に発行された3冊の中で一番短いGever Tulleyの書籍(31ページ)です。英語を母国語とする人の3〜4倍ぐらいは時間がかかっていると思いますが、1時間半程度で読み終わりました*1

英語ネイティブの人の感想とは違うかもしれませんが、僕の感覚でいうと、英語で書かれていてもこれぐらいで読み終われるのであれば、他の作品も読んでみようかという気持ちになります。英語力が十分でない非ネイティブにとっては、通常の長さの英語の本を読むのは時間的にも労力的にもかなり大変です。実際、僕は英語で面白そうな本が出ても原書を買うことは稀で、大抵は邦訳が出るのを待っています。TED Booksは、その点かなり利用しやすいものになっていると感じます。

もちろん、本文が短いので、伝えられる内容には限りがあります。岩波のブックレットとか、以前に角川が出していた角川mini文庫とか、書籍でいえばそんな感じのイメージでしょうか。ただ、ブックレットやmini文庫のように極めて薄かったり小さかったりする本は、棚で探しづらかったりちょっと安っぽく感じられたりという側面も否めません。電子書籍の場合はそうした不都合がないという点は違いと言えるかもしれません。

クリス・アンダーソンは「今の時代の関心時間(attention span)」に合わせて本の長さを短くしたと述べていますが、自らの興味を強く惹く「特別なもの」*2には思い切り時間を振り向けるけれど、そこまで行かないものに対しては時間と感心の振り分け方がどんどんシビアになって来ている、というのが今の時代の特徴だと思います。だとすると、テーマを絞って、長さを抑えて、人々のattention spanにコンテンツのフォーマットを合わせるという方法は、「興味はあるけれど特別だとは言えないコンテンツ」にとって、合理的な戦略の一つと言えるのではないでしょうか。

このattentiin spanに関連してもう一つTED Booksから感じたのが、「内容のコンパクト化」は書籍に限ったものではなく、他のメディアでもその流れが起きつつあるのではないだろうかということです。例えばゲームの世界では、既にスマートフォンSNS上で気軽に楽しめる短い作品が大きな存在感を持つようになっています。テレビ番組や雑誌、新聞などでも、内容のコンパクト化に対するニーズが今後高まってくることは十分に考えられます。ただし、「コンパクトではない形」のコンテンツを主力とする既存の企業にとっては、諸刃の剣になりかねないものなのかもしれません。

メディアの種類がどうあれ、コンパクト化を成功させるポイントは、中身の濃さと面白さのレベルを保ったまま短い作品に仕上げることができるかどうかという点に尽きるでしょう。これは、長い作品を要約・濃縮するというだけでなく、別のアプローチが必要になってくるはずです。TEDは動画ではそれが可能なことを示してきましたが、書籍でもそれができるのかどうか、また他のメディアでどのようなコンテンツのコンパクト化が現れてくるのか、注目していきたいと思います。

*1:同一画面で簡単にわからない単語の意味が調べられるKindleの辞書機能にも大分と助けられました。

*2:「特別なもの」というのは、例えば世界的なスポーツ大会(延長にまで突入した深夜のアジア杯サッカーを嬉々として見ていた人は多いはずです)や超大作映画(もう1年前ですが「アバター」は162分の作品です)、話題の書籍(「1Q84」は第3部までいずれも大ヒットしました)などです。もちろんもっと目立たないものでも、嗜好によって個人的に「特別」になるものもあるでしょう。