最近のTEDトークより

先日はTEDのオープンTVプロジェクトについて書きましたが、今回は自分が最近見た日本語字幕付きのTEDトークの中から、このブログでも取り上げているような話題と関連していて面白いなと感じたものをいくつか紹介します。

ジョナサン・ジットレイン「親切に支えられたウェブ」
  (原題:Jonathan Zittrain: The Web as random acts of kindness)

昨年出版された本『インターネットが死ぬ日』の著者による講演です。本職はハーバード大の法学者。上記の本の紹介文では「いわゆる『エルドレット対アシュクロフト訴訟』ではローレンス・レッシグとともに著作権延長に反対する論陣を張ったことで知られる。」と書いてありますが*1レッシグがハーバードに移った今は同僚でもあります。本ではどちらかというとネットの将来に警鐘を鳴らすような内容が主だったのですが、TEDトークの方ではむしろネットの持つ「生み出す力」をクローズアップしたものになっています。ユーモアを交えた語り口とも相まって、ウェブにはいろいろな問題もあるにせよ、ウェブの発展を支えてきた人々の「親切」というのは今でも健在なんだな、ということを感じさせてくれるトークです。


ラリテス・カトラガダ:経済発展のため、災害と戦うための地図作成
  (原題:Lalitesh Katragadda: Making maps to fight disaster, build economies)
Googleのエンジニアによる、ユーザー参加型の地図編集サービス「Google Map Maker」とその活用事例の紹介です*2。以前にこのブログで、カリフォルニアでの山火事の際にLA TimesがGoogle Mapsを使って現地の情報をきめ細かく地図に落とし込んで提供したという話題を取り上げたことがあります(こちら)。そうした取り組みをよりユーザー主導でオープンに行っていこうというのが「Google Map Maker」のコンセプトなんだろうな、と感じました。


ティム・バーナーズ=リー 「オープンデータとマッシュアップで変わる世界」
  (原題:Tim Berners-Lee: The year open data went worldwide)
World Wide Webの仕組みを考案した人として知られるティム・バーナーズ=リーによる講演です。自治体や公的機関などが自らの持つ各種の生データをウェブ上に公開するとこんなに面白いマッシュアップのサービスが生まれてくる、ということを、実例を挙げながら示してくれます。「生データ」と「ユニークな切り口」、そして「ビジュアル化のセンス・技術」がウェブ上で結びつくことの可能性の大きさを実感させてくれるトークです。上に挙げたラリテス・カトラガダのトークと重なる部分もありますが、そちらが協同的な地図の作成に焦点を絞っているのに対し、こちらは誰でも参加できるオープンさを持っているかどうかに関わらず、生データとクリエイターのつながりから何かが生まれるという関係性を重視したアプローチになっています*3


デレク・シヴァーズ 「社会運動はどうやって起こすか」
  (原題:Derek Sivers: How to start a movement)
イラン大統領選の際に見られたTwitterの使われ方などが示しているように、ソーシャル・メディアは社会運動とも無縁ではなくなりつつあります。使い方次第でポジティブな方向にもネガティブな方向にも転がっていくものだと思いますが、「ムーブメントを起こす上では、リーダーのみでなく最初期のフォロワーが果たす役割が極めて重要なのだ」というシヴァーズの主張にはなるほどと思わせられました。そしてこうしたフォロワーがついた時にそこから爆発的にそのムーブメントを広める有力な媒体となるのがソーシャル・メディアなんだろうなと感じました。


シンシア・シュナイダー「視聴者オーディション番組の驚くべき広がり」
  (原題:Cynthia Schneider: The surprising spread of "Idol" TV)
上に挙げた他のトークとはちょっと毛色が違いますが、テレビや新聞といった伝統メディアはもう時代遅れだ、という見方もある中で、場所が変わればテレビが今でもこれだけ人々を惹きつけるメディアであり続けているんだ、ということが感じられるトークです。アフガニスタンの荒涼とした大地を、テレビの時間に間に合うよう必死で進む少年の姿などは、この地でテレビが持つすさまじい力を教えてくれます。そして、それだけの人気を持っている番組がドラマなどではなく視聴者参加型の「リアリティ・ショー」である、というところに驚かされます。視聴者オーディション番組がローカライズされて、一方では現地の文化を色濃く反映しつつ、他方では旧来の慣習に風穴をあけることにもつながっている、という点に大きな興味を覚えました。


全てのTEDトークをチェックしている訳ではありませんので他にも面白いものは沢山あるかもしれませんが、このブログを興味を持って読んで下さっている方は、恐らくここに紹介したTEDトークもお楽しみいただけるのではないかと思います。ジョナサン・ジットレインのトーク以外はいずれも5分程度かそれ以下の短いものです。

それからTEDと言えば、明日5/15(土)にTEDxTokyo 2010が開催されますね。当日の模様をTEDxTokyoのサイトライブストリーミングするということで、こちらも楽しみなところです。

*1:Amazonの作品紹介ページより抜粋。

*2:Google Map Maker」について詳しくは、Internet Watchの記事などを参照。

*3:どちらが良いということではありません。