シリコンバレーのリクルーターは「炭鉱のカナリア」である

ベンチャーから大企業までデジタル関連ビジネスの最前線を行く企業が立ち並ぶシリコンバレーでも、不況の嵐が吹き荒れています。アメリカのIT企業やメディア企業はものすごい勢いで人員削減を進めていますが(例えばTech Crunchの記事Paid Contentを参照)、New York Timesの記事によるとその中で特に深刻な状況に置かれているのが人材採用を担当するリクルーターだそうです。

記事では、何年間もの間シリコンバレーで求職者たちにレジュメの書き方やプレゼンの仕方、インタビュー・スキルや人的ネットワークの広げ方などをアドバイスしてきた「仕事探しの専門家」たるリクルーター自身が、景気の後退で職を失った後何か月も自らの新しい雇い主を見つけることができなくなっているという状況が紹介されています。

今年1月にGoogleが人員削減に踏み切ったということが話題になりましたが(例えばIT Mediaの記事)、その際もカットされた100人分というのは人材採用のポジションでした。でも、New York Timesの記事によると、シリコンバレーでは正社員としてではなく契約業者として働くリクルーターが大部分を占めているため、レイオフという扱いにはならない形で(契約終了後、更新されないということです)もっともっと多くのリクルーターたちが職を失っているそうです。

記事中にもあるように、リクルーターというのはエンジニアのようなシリコンバレーの「花形職種」ではありませんが、極めて人材の流動性が高い場所においては、才能を集める上でとても重要な役割を果たしています。シリコンバレーでさえそうした人々の活躍する場がほとんどなくなってしまったということは、今の経済状況の深刻さを物語っているように思えます。そして、景気悪化の影響を真っ先に受けている人たちという意味で、「リクルーターたちは炭鉱のカナリアみたいなものである」という言葉が紹介されています。

ここで興味深いのは、「じゃあその逆も言えるんだろうか?」ということです。リクルーターたちの就業事情は、どのくらい先になるかはわかりませんがいずれ訪れるだろう経済好転の兆しを真っ先に知らせる「幸せの青い鳥」にもなり得るのでしょうか。

シリコンバレーのような場所では、企業が守りから攻めに転じる時に真っ先に求めるのが「有能な人材」ですから、その際にリクルーターの持つノウハウが強く求められるのは確かでしょう。彼らを取り囲む就業事情は、景気好転の兆しを探るひとつの手がかりを提供してくれるかもしれません。でも、その際は同時に「どの分野でリクルーターが求められているのか」ということにも注目する必要があるでしょう。いずれ景気が上向いたとして、その時にリクルーターたちが活躍するフィールド(=成長分野として繁栄する産業)が情報通信分野であり続けるという保証はありません。シリコンバレーの主力が今後も当面はICT関連なのか、もしくはバイオやナノテク、環境関連あるいはまったく新しい何かにシフトしてしまうのか。リクルーターたちに対するニーズは、そんなことを占う上でも参考にできるかもしれません。