オンラインビデオの「目利きサイト」誕生

USA Todayの記事に、オンラインビデオの世界で面白い作品を見つけ出して紹介するガイド役を目指すサイトが新たに立ち上げられたというニュースが出ていました。eGuidersという会社がそれです(ウェブサイトはこちら)。

「We search, You watch」というシンプルなキャッチフレーズが、この会社の目標とするところをわかりやすく示しています。特徴的なのは、アクセス回数や視聴者からのレーティングといったアルゴリズムや"群衆の叡智"的な要素によって作品を格付けするのではなく、ハリウッドのプロデューサーや脚本家などを目利きとして登用し、彼らがお薦めする厳選された作品を紹介するという仕組みを採用したことです。「群衆」ではなくて「プロ」、「自動(コンピュータ任せ)」ではなくて「人力」という点で、たとえばYoutubeなどにあるランキングとの差別化を図っています。また、テレビ番組などではなくネット向けの独自コンテンツを対象にしているという点で、テレビ局のネット配信とも仕組みが異なります。Youtubeやその他の動画投稿サイトにアップされたさまざまなコンテンツや、Huluなどに少しだけ載っているウェブ独自コンテンツなどを対象にして、プロが面白い作品を選んで紹介するというのがeGuidersの事業です。

面白い試みだと思います。地上波テレビの大きな利点のひとつが「限られた局の中のどこかにチャンネルを合わせればそれなりに面白いコンテンツが楽しめるだろう」というスタイルの娯楽を提供してくれることであるように*1、楽に、受け身で映像コンテンツを楽しみたいというニーズはそれなりに大きなものがあります。そんな人々にとって、膨大なオンラインビデオの中から映像のプロたちが手間暇をかけて視聴する価値のあるビデオを探し出してくれるというのはありがたいことでしょう。オンラインビデオの数が増加するにつれてそこから面白いものを見つけ出すという目利き役の重要性は増しますから、「プロの眼を組織化する」というのはそれに対するひとつの答えに十分なり得ます。

この場合、目利き役の人々がどれほどのステータス・信頼度を持っているかということに成否が大きく依存しますが、eGuidersの場合はドラマ「24」や「LOST」のプロデューサーなどが入っているなどそれなりの陣容を揃えています。ここで紹介されるコンテンツは、ある程度のブランド・バリューを持つことになりそうです。

ただ一方で、オンラインビデオの目利きは映画祭に行って有望な映画を買い付けてくるというような目利きとは異なります。後者の場合は出品されている作品を目にすることができるのは業界内の限られた人間(=プロ)に限られ、その配給・配信ルートも限られていますが、ネット上に公開されているビデオはプロ・アマ問わず誰でも見ることができますし、それを他の人々に知らせる方法もメールや自分のブログでの紹介、Youtubeへの投稿などたくさんあります。また、プロの脚本家やプロデューサーは確かに作品を見る目が肥えているのでしょうが、アメリカのネットワークTV局が毎年新たに立ち上げるプライムタイムのドラマやコメディの8割は1シーズンで打ち切られると言われていることにも注意が必要です。いくら幾会もの審査を通ってプロがゴーサインを出した企画でも、視聴者の関心を掴むことにそうそう成功するものではないのです。

こうしたことを考えると、オンラインビデオの世界における目利きとしてのプロとアマの差は一体どれ程あるのかという気にもなってきます。1対1ならばプロの方が圧倒的に優位だとしても、10人のプロが探し出したeGuidersの作品と10万人の素人の間で話題になったYoutubeの動画ではどちらが面白いんだろう、ということです。Youtubeの人気動画などとは違うレパートリーを揃えることができて、かつ一般の人々の間でまだ話題に上っていないような「掘り出し物」をどれほど集めることができるかどうかという点が、eGuidersの将来を占うのかもしれません。まだ立ち上がったばかりとはいえ、僕がサイトを訪れた時にはあまり心惹かれるコンテンツはありませんでした*2。これからどうなっていくことでしょうか。

*1:ケーブルTVが普及している今のアメリカではあまり当てはまらないかもしれませんが。

*2:一部は日本からのアクセスができないものでした。