ネット配信事業者はいかにして広告主との関係を築くべきか

いつも読んでいるOnline Spinというブログに、アメリカの動画ネット配信についての興味深い考察が出ていたので紹介します。「Advertisers will not lead online video advertising - They follow」という題名のエントリーです。

著者のCory Treffilettiは、Huluの成功などにより長尺の動画がネット上で視聴されることになったという意味で今年を「オンライン動画がブレイクした年」と位置付けていますが、あわせて広告メディアとしてのオンライン動画には4つの課題があると述べています。簡単にまとめてみます。

1.ネット上で動画を見る人の数は、増えつつあるとはいえ多くの広告主の関心を惹くほどのレベルにはまだ至っていない*1

2.オンライン動画に載せる広告の有効性を測る尺度がまだ確立していない*2

3.多くの広告主たちは動画広告を制作するのに多額のお金を費やしているので、コスト面の効率性に問題がある。

4.オンライン動画の配給事業者たちは、「オールド・メディアの論理」を学ばなければならない*3

これらのことから、筆者は「CMつき・無料オンライン動画の市場を先導して成長させて行くのは広告主ではない。多くの広告主は、ある程度市場が出来上がってから後追いでやってくるのだ。」と主張しています。

当たり前のことだとも言えますが、こうして整理された構図を見てみると改めて納得してしまいます。要するに、新しい技術を使って新たなサービスを作り上げたというだけではそれをビジネスとして成功させるためには不十分で、それが広くユーザーの支持を集め、そして広告を出す価値があるということを広告代理店や広告主に理解させる必要があるのです。

そう考えると、4つ目の課題をいかにして解決するのかということがオンライン動画の配信事業者にとって特に大切なのではないかという気がします。技術面やサービス・モデルの新しさと、旧来のビジネス環境への理解(あるいは逆に旧来の技術やサービス・モデルと新たなビジネス環境への理解)を併せ持つのは、決してたやすいことではありません。上で紹介したブログ・エントリーのコメント欄にも面白いことが書かれています。Mike McGrathさんという人のコメントです。

シリコンバレーとマディソン・アベニュー*4の間には、大きな文化的隔たりがあるように思える。一方では、シリコンバレーの人々は「新たなサービスを作り上げさえすれば広告主たちはやってくるだろう」と考えているし、他方では、広告主たちはオンライン動画やユーザー作成コンテンツなどに関心はあるけれどどうやってそれらの新たなメディアを活用すれば良いのかが全くわかっていない。

ここを解決するには、広告主が態度を変えるのを待つのではなく、ネット配信事業者の側がいろいろな手を打って広告主をオンライン動画という新たなフィールドに引っ張り出さなければいけないというのがTreffilettiの主張です。動画のネット配信を行う会社は、技術オンリーの会社であってはならず、オールド・メディアの論理およびこれまでその論理に(疑問を持つことは度々あるかもしれませんが)従ってきた広告主の思考の枠組みを理解しなければなりません。その上で、ネットに動画コンテンツを配信し、そこに広告を出稿することがどのようにオールド・メディアや広告主にメリットを与えることになるのかを説得しなければならないのです。動画の無料ネット配信をビジネスとして成功させるには、デジタル技術に強い会社であるばかりではなくメディア企業としての顔も併せ持つ会社であることが求められているのかもしれません。

*1:広告主はターゲットとする視聴者がいる場所を目指すので、まだオンライン動画の世界にはあまり目を向けていない

*2:オンラインビデオの広告は、クリック率は低いかもしれないが認知度を挙げたりブランド力を高めたりするのに役立つかもしれない。でもそれはどうやって測ればいいのか?

*3:主だった広告主たちは、”これは上手くいくだろう”と理解できるやり方を好み、リスクは避けたがる。そうした彼らの特性を知り、同じ土俵に立った上でオンライン動画への広告出稿を呼びかける必要がある

*4:広告代理店が集まるニューヨークの一角。広告代理店を指す