映画館のバリューを上げるには

このブログではいつもコンテンツのオンライン配信がいかに発展してきているかということを書いていますが、今回は家で、あるいはiPodなどを使って外出先で気軽に視聴できるコンテンツの数と種類がどんどん増えていく中で映画館はどのようにして自らの存在価値を高めようとしているのかを考えてみたいと思います。

先日、Real Dという3D映画の上映技術を開発している会社の話を聞く機会がありました。ハリウッドでは、最近デジタル3D映画というのが話題になっています。昨年秋に公開された「ベオウルフ」は、この方式を採用して大々的に全米公開されたパイオニア的な映画として大きな注目を集めました(もちろん、従来の2D版でも公開されています)。左右の目に若干異なる映像を見せてそれを特殊なサン
グラスで補正して立体的に感じさせるという基本的な仕組みは以前からある3D映像と同じですが、デジタル3Dでは観客の目が疲れないような映像づくりが可能になり、また特にCGと相性が良く、そこからは簡単に3D映像が制作できるといった点が特徴だということです。

アメリカでは、すでにReal D方式のスクリーンが1000以上普及していて、2009年までに4000以上に増えるだろうと予測されています。また、日本でもワーナー系の映画館で全国に何か所か、デジタル3Dに対応しているところがあります。

映画スタジオや映画館にとってデジタル3D映画が魅力的なのは、それが観客を劇場まで呼び寄せる大きな売りとなり、また2Dの映画よりも2〜3ドル高めの値段設定をできると期待しているからです。確かにデジタル3Dは劇場で盗撮した映像をネットに載せるといった種類の海賊版を防ぐ効果がありますし、「映画館の大スクリーンならでは」という体験の価値を高める上で効果をもっているでしょう。これまでのところは、多少高めの入場料を取っても観客からの評判は良いようです。

デジタル3D映画のクリップも実際に見せてもらったのですが、たしかに雪や火の粉が飛び散る様などを上手に立体化しているものが多く、映像が生き生きとして見えました。特に、U2のライヴを3D映像化した「U2 3D」という作品は素晴らしい出来でした。スピーカーの人が「この作品は3D映像をとても丁寧に製作している」と評していたとおり、サングラスをかけていても全く違和感を感じることなく、しかも自分が実際のライヴ会場にいるのとほとんど変わらない臨場感を味わうことができました。僕たちが見せてもらったのは1曲分だけでしたが、従来の2Dの映画とは違うかなり鮮烈な映像体験となりました。

映画を3D化するというのは、ただ技術面が変わるだけではなく、3D映像を生かすためには演出も工夫しなくてはいけません。だから、3D撮影をして、3Dスクリーンが増えるだけで劇場の収入が増えるとは単純には言えません。でも、「U2 3D」のようなクオリティの高い作品が次々に生み出されるようになれば、それは確かに映画館にとっては大きな強みになるなと感じました。