コンテンツが王様なら配信は…

ハリウッドでは、"Content is king"という言葉をよく耳にします。マルチチャンネル化やマルチプラットフォーム化がどんどん進んでいく中、コンテンツの権利を押さえた者が一番大きな力を持つという意味で使われています。でも、しばしばこの言葉と対になっているのが"Distribution is King Kong (あるいはqueenだったりemperorだったりもします)"というフレーズです。良いコンテンツがあっても、それをユーザーに送り届ける経路がなければそのコンテンツを十分に活用することができません。Distribution(配信)は、メディアのビジネスを考える上でとても重要な分野です。

デジタル技術の進歩は、長い年月をかけて確立してきた映画やテレビ番組など動画コンテンツの配信モデルを様変わりさせてしまう可能性を持っています。一方では、Youtubeに代表される動画投稿サイトやP2P技術を活かしたコンテンツの共有が飛躍的に発展し、それとともに著作権の侵害が深刻な問題になっています。他方で、アメリカやイギリスなどでは、映画会社やテレビ局が主導する(あるいはバックアップする)「合法的な」ウェブ上のコンテンツ配信サービスが大きな注目を集めています。ブロードバンドの普及、回線の大容量化、圧縮技術やDRMの発展などが重なり合い、インターネットは動画コンテンツを配信する有力なプラットフォームになりつつあります。

僕は今年の夏までの予定でロサンゼルスに滞在し、アメリカのメディア・コンテンツ企業のビジネス戦略を分析しています。その中で、オンラインVODが既存の映画スタジオやテレビ局のビジネスに与える潜在的インパクトの大きさを実感しています。

もちろん、オンラインVODはまだ立ち上がったばかりのサービスです。ビジネスモデルも確立していませんし、どれほど視聴者に受け入れられ、どれほど収益性のある事業なのかということは今の時点では未知数です。でも、アメリカやイギリスではテレビ局や映画スタジオが既にプレイヤーとしてこの分野に参入し、オンラインVODをビジネスとして成立させようと有力コンテンツを投入しながら必死に競い合っているということにも目を向けなくてはいけません。アメリカやイギリスで起きている変化は、日本のメディア業界にも近い将来何らかの影響を及ぼしてくるでしょう。そして、世界をリードするハリウッドやアメリカのネットワーク局などが本気で新しいことを始めている以上、ウェブ上での動画コンテンツ配信という流れが今後後退することはありません。だとすれば、アメリカやイギリスで今どんなことが起きていて、どんなチャンスや課題があるのかを知るのはとても興味深く、示唆に富むことだと思います。

自分はエンジニアではないので技術的な話はほとんどできませんが、このブログでは、ウェブ上の動画コンテンツ配信がどのような新ビジネスとして立ち上がって来ているのか、既存メディアのビジネスにどのような影響を与えているのか、そして既存メディアの側ではどのような対応をしようとしているのかといったことを、主にアメリカやイギリスの事例を中心に紹介していきたいと思っています。