テレビ番組のオンライン配信 -2

BBCのオンラインVODプラットフォームであるiPlayerは、昨年12月にベータ版から本格運用に切り替わりました。それに伴い、重要な改善が施されています。iPlayerは当初、Windowsのユーザーしか使うことができませんでした。専用のプレイヤーがWindowsにしか対応していなかったからです。また、ユーザーはそのプレイヤーをインストールした上で指定した番組のダウンロードが完了するのを待たなければそれを視聴することができませんでした。このように、BBCは自ら利用者の範囲を狭めるとともに、使いやすいとはいえない手順を踏ませることによってユーザーのやる気を引き出すことにも失敗していました。実際、Guardian紙のウェブサイトに載っているブログでは、この時期iPlayerのレギュラー・ユーザーは数千人しかいないと評されています。

しかし、本運用を開始するにあたって、新たにストリーミングでの番組配信が始まりました。これにより、必ずしもプレイヤーをインストールする必要がなくなったので、MacLinuxのユーザーもオンラインでBBCの番組を視聴できるようになりました。また、ストリーミングの開始によってBBCのウェブサイトから直接、すぐに(ダウンロードを待つ必要がなく)番組が見られるようになったので、利便性も大いに向上しました。ダウンロード版と比べてストリーミング版では提供される番組の数が少ないという難点はありますが、番組へのアクセスを開放するという意味では、この変更は極めて大きな意味を持っています。

ある調査によると、ストリーミングが始まる前の12月上旬から始まった後の1月上旬の間に、iPlayerのトラフィックは14倍に増えたそうです。BBCも、本運用開始からの2週間でiPlayerから350万回以上のダウンロード/ストリーミングが行われたと発表しています。また、BBCのニューメディア部門を統括する理事であるアシュレイ・ハイフィールドは、この期間のストリーミングとダウンロードの比が8:1だったとBBCのブログで述べています。iPlayerの利用はその後も順調に増えつづけ、つい先日のBBCプレス・リリースによると、本運用の開始から7週間で合計1700万アクセス、そして1日平均では50万アクセスにも及ぶそうです。これらの点から、使用PCによるアクセス制限がなく、気軽に視聴できるストリーミングへの需要がどれほど高かったのかが伺えます。

BBCは受信料でほとんどの収入を賄う公共放送なので、iPlayerでの番組も広告なし、無料で提供されています。基本的にはテレビでの本放送から1週間以内の番組をiPlayerで見ることができます。でも、これに加えてBBCは最近新たな動きを見せました。子会社のBBC Worldwideを通じて、過去の人気番組やiPlayerでの視聴期間が終わった番組などをiTunesを通じてイギリス国内で有料販売(1本1.89ポンド)すると発表したのです。BBC本体は商業行為を行うことができませんが、Worldwideは営利子会社です。受信料収入を補うためBBCは自らが制作したコンテンツから最大限の収益を上げるよう政府から要請されているので、その一環としての取り組みでしょう。これは、BBCが受信料を払っているイギリス国内の視聴者に対して有料でコンテンツをオンライン配信する初めてのケースとなります。BBC Worldwideは、Youtube上にチャンネルを設けて番組のプロモーション映像などを流し、広告収入をyoutubeと分配しあうという取り組みも行っています(このチャンネルは、広告付きなのでイギリス国内では視聴できません)。ウェブ上のあらゆるプラットフォームを積極的に使い分けているBBCのしたたかな戦略を垣間見ることができます。

このように、テレビ番組のオンライン配信は無料、ストリーミングというスタイルが主流になってきています。その一方で、テレビ局の側では広告収入をいかにして増やすか、またプレミアム・コンテンツを有料で提供するというモデルは確立できないのかと模索をしています。自社が行うオンラインVOD、過去の番組や無料提供が終わった番組などの自社サイトからの有料販売、そして他社にライセンス供与して行う販売(iTunes, Amazonなど)が並存し、相互に競争と補完をしながらテレビ番組のオンライン配信は発展していくことになるでしょう。