ウォルマートのVudu買収が意味するところ

ウォルマートがオンラインの映画配信を行うベンチャーVuduを買収するという報道がありました(第一報はNew York Times(こちら)、日本語の記事はロイター(こちら)などを参照)。ネット上での動画配信ビジネスの今後を考える上で、これはなかなか興味深い動きだと思います。

言うまでもなくウォルマートは年商40兆円を誇る世界最大の小売チェーンですが、アメリカではDVDやブルーレイ化された映画の売り上げの30〜40%をウォルマートでの販売が占めると言われるほど高いシェアを持っています(こちらこちらを参照)。アメリカの映像コンテンツ産業の屋台骨を支えるプレイヤーのひとつなのです。伝統的なパッケージソフト販売の分野でそれほど圧倒的な存在感を持つ企業が、いちど失敗しているにも関わらず*1、1億ドル以上とも言われている金額を支払ってネット配信に再参入してくるというところにこの話の意外性と面白さがあります。

今回もポイントは「店舗での小売り」と「ネット配信」の間でどうやって相乗効果を上げていくのかというところにあるかと思います。その点でVuduを買収するという選択はなるほどなとも感じるものでもありました。

Vuduはこの1年ほどで、自前のセットトップボックスを販売するやり方から、他社が販売するテレビにソフトウェアとして組み込んでもらってサービスを提供する方法へ戦略を転換しました。今年1月に行われたCESで、サムスン、サンヨー、シャープ、東芝、ビジオとの提携を発表しています(LA Timesの記事などを参照)。これからVuduを組み込んだテレビがアメリカでどんどん発売されていくはずです。だとすると、こうしたVudu対応テレビをウォルマートで販売促進して大量に売り上げ、客が家庭でVuduを使うための下地を整えるというやり方は考えられそうです。

またパッケージソフトでの高いシェアを背景に、ウォルマートは映画スタジオなどコンテンツの権利者側に対してもある程度の影響力を持っているはずです。コンテンツの売り上げがパッケージ販売からネット配信へとシフトしているという共通認識が出来上がれば*2NetflixやTivoなどの競合他社と比べて、ネット配信用により良いコンテンツをより早く卸すという交渉を行いやすいという面があるかもしれません。

もうひとつ考えられるのがパッケージソフトとネット配信コンテンツを組み合わせて販売することです。例えば米Amazonでは最近「Disc+On Demand」というサービスを始めました(こちら)。AmazonでDVDやBlu-rayの一部対象商品を買うと、通常通り商品が発送される一方で「ネット配信版」がギフトとして付属し、ネット上では購入後すぐにその作品を視聴できるようになるというサービスです。商品の購入と入手に時差が生じる通販の弱みを逆手に取った上手い取り組みだと思います。ウォルマートでは購入と入手が通常同時に起きますから、Amazonと全く同じ仕組みを作ってもあまり意味はないでしょう。でも、DVDやBlu-rayを買うとVudu上で何らかの特典映像が見られるとか、何らかの形で両者を効果的に結びつけることができれば、そこには新たな価値が生まれるはずです。

ウォルマートはこれまでもコンテンツ・ビジネスの主要プレイヤーのひとつでしたから、ネット配信への参入は自然と言えば自然なのかもしれません。でも、今回の件が日本の新聞などでも結構報じられているところを見ると、やはりそのインパクトは大きかったんだなと思います。今回上に書いたことはどれもあくまで「可能性」としてのサービスや戦略の話ですが、ネット配信ビジネスの競争が激化する中で、また面白い取り組みが出てくるのではないかと期待しています。

*1:ウォルマートは2007年にHPと組んでこの分野に乗り出しましたが、翌年撤退しています。Paid Contentの記事などを参照

*2:それがいつ頃のことになるのかはわかりませんが、iPadの登場によって早期化されるかもしれないなという気はします。